山本理顕設計工場×横浜国立大学大学院Y-GSA|ユルツナ大学

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社会インフラとしての「地域社会圏」
山本理顕設計工場×横浜国立大学大学院Y-GSA

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 今、日本は「孤独死」「無縁社会」が叫ばれ、単身世帯が増えるなど標準とされていた家族形態が崩壊しつつあります。そして、それに代わる新たなつながりの構築が様々な分野で取り組まれています。「山本理顕設計工場×横浜国立大学大学院Y-GSA」で進められている「地域社会圏」の研究では、地域における社会システムを統合的に捉え建築というカタチに昇華させています。その研究成果は書籍として本年末に出版のご予定ですが、いち早く、その研究の一端をご紹介できる機会を得ました。では、山本理顕さん、そして本研究に携わっている山本理顕設計工場 玉田誠さん、横浜国立大学の大学院生の方々の授業はじまりです。

Q:今、研究されていらっしゃいます「地域社会圏」の狙いを教えていただけますか?

 日本は核家族化が進み、介護や育児などを家族の中では負担しきれなくなっています。そして単身世帯も増えつづけています。家族という単位で物事を捉えきれなくなっているはずですが、住宅は未だ家族単位での供給が進められています。そこで「一住宅=一家族」という基本単位を一旦解消して、仮に500人単位での新しい住み方を考え、そこでの多様なコミュニティや相互扶助を創出し、今後の地域社会の有り方を考えていくものです。

yama14.jpg「建築のちから③ー地域社会圏モデル」(INAX出版) 3人の建築家による提案の面白さもさることながら、伊東豊雄、山本理顕、藤森照信による講評会や経済学者の金子勝、思想家の東浩紀、建築家の原広司との鼎談も収録された読み応えありの秀作です。 500人規模の単位であれば、生ゴミ発電などのエネルギーの自給自足、自動車やスパ、ランドリーなど様々な生活ツールのシェアリング、そのコミュニティでの簡便な移動を実現するローカルモビリティ、コンビニを多機能化した福祉、介護、育児のサポート拠点などが、効率的に展開できると考えています。

このプロジェクトは山本理顕先生の授業として1年以上研究活動を行っているものです。2010年3月に発行された「建築のちから③—地域社会圏モデル」(INAX出版)では若手の建築家3人(中村拓志さん、藤村龍至さん、長谷川豪さん)に「地域社会圏」をテーマに提案をしてもらったのですが、今回は横浜の敷地を具体的に想定し、且つ、社会システムなどのソフト面も含め統合的に提案していこうとするものです。依って、建築設計以外の方々、企業、自治体、不動産、育児や介護の専門家など様々な分野の方にアドバイスを頂きながら進めています。

Q:具体的にはどのように建築設計に落とし込まれているのでしょうか?

 そもそも“住宅自体が閉じている”ことを根本的に変えようとしています。それぞれの居住空間には占有スペースに“見世”を設けています。そこでギャラリーをやったり、お店を開いたり、自分のアトリエを持ってもいい。そういう自由な使い方をしながら、それが外に対して開かれていることで、周囲との何かしらのつながりを見出すものと考えています。更には、そこから地域に資する仕事も生まれてくるものと考えています。

 そして住居の構成単位も根本から問い直しています。部屋の借り方において“容積貸し(1つの単位が2.4m×2.4m×2.6mのキューブ(15㎥)”という概念を導入しているのですが、住居を立方体(以下、キューブ)の構成にして「○○LDK」というパターン化ではなく、有機的にキューブが2~3個、5~6個、更には上下にも自由に組み合わせられるようにしています。

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 例えば、夫婦で最初に2つのキューブを借りたとします。子どもが生まれたら「もう1つ、キューブを借りましょう」ということになるでしょう。そして、子どもが成長して独立した後には「今度は、1つキューブを減らしましょう」というように、家族の変化にあわせて住居の容積を変えていくわけです。また容積貸しは面積を借りるという考え方でなく空間を借りるという考え方でもあります。例えば、開放的な吹き抜けが欲しいということとなれば「上方向にキューブを借りましょう」ということが出来る。逆に要らないということであれば、上のキューブを誰かに貸すことも出来る。水平方向だけでなく上下方向にも空間を貸し借りできるという新しい感覚があると思います。

 また、このように小さなキューブの単位で構成すれば、その最少単位で借りることも出来ます。例えば起業しようとした時、最少単位のキューブだけにすれば不動産コストを大きく抑えることができます。こうすれば、平日は東京に働きに行くけど、休日はサイドビジネスを始めたりなど、多様な暮らし方や働き方が生まれてくると思います。また共同でキューブを借りてコモンストレージにするなど発想次第で使い方は無限に広がってくると思います。

 このように“何かをしようとしたときに受け止めてあげる空間”であることがとても重要で、ここに住む人たちをある生活パターンに強要してはいけないと考えています。住宅であれば「住宅である事しか許しませんよ」、オフィスだったら「働く事しか許しませんよ」という空間でなくて、色んな事を柔軟に許容してあげる。そういう空間が高齢者も住みやすく、子どもも育てやすいことに繋がってくると思います。

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 また、この容積貸しをサポートするシステムも必要だと思っています。例えば空いているキューブの情報をコンピューター管理して、貸したい人と借りたい人とをマッチングさせるなどきめ細かくサポートしていけば、有効に活用されるはずです。

 次に大きな共用部というのも大きなポイントだと思います。そこには共有のミニキッチン、シャワー、トイレなどの水回りが用意されているのですが、先程のキューブは、この共用部に寄り添って構成されます。家族構成や同居者の構成によって、柔軟にキューブと共用部を構成し、様々なコトやモノをシェアする暮らし方が生まれてくると思っています。

 あと、容積貸しするキューブは規格化して量産効果を狙った設計にしています。キューブを3つつなげたものが一般のコンテナと同じサイズで、トラックにそのまま乗せられるように設計しています。パネルも企業間でコスト削減などが図られれば、より導入しやすくなるでしょうね。

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