北欧の人をつなげる建築 第4話|ユルレポ海外

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連載 第四回「人を招きたくなる機能」

株式会社グラディエ代表取締役
磯村 歩

人をつなげる建築の外部空間と内部空間における事例、そしてそもそも“作りすぎないこと”も必要であることをお伝えしました。今回は、その建築における機能をどう構築すれば人を招きたくなるかについてご紹介したいと思います。

「家としての個室」

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各個室のキッチンは独立した住居としての象徴でもあります

 デンマークにある24時間介護の高齢者センターの個室には、食堂で食事が摂れるにもかかわらず、簡易的なキッチンが設置されています。ゲストを招いた時にお茶ぐらいは出せるようにという配慮ですが、こうした最低限の設備でも人を呼ぶきっかけを住人に与えているといいます。更には「せっかくキッチンがあるのだから自分でコーヒーくらいは入れてみようか」と活動する動機にもなり、寝たきりがちだった住人が生活能力を取り戻したケースもあるようです。全ての個室にはトランスファーショック(高齢者が環境の変化に対応できないこと)を和らげるために、今まで使ってきた家具や調度品を持ち込めるようになっています。視察に同行した日本の社会福祉士が「ここなら私も住みたい!」ともらすほど施設の個室とは思えない素敵なインテリアだったのですが、こうしたこともゲストを呼ぶ大きな動機付けになるでしょう。そもそも各個室には部屋番号がなく“固有の住所と電話番号”が割り振られています。そして、そこに住む高齢者は“利用者”ではなく“住人”と呼ばれています。デンマークの高齢者福祉の三原則(①継続性の原則、②自己決定の原則、③自己資源の開発の原則)のもと、住人として今までの生活を継続するという理念が根付いているわけですが、こうしたことがこの施設に住む人の有り様を整え、人を招きたくなる空間が作り出されていくのです。

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施設の個室とは思えない素敵なインテリア

「居住空間の多様化」

 デンマークのエコビレッジ「スヴァンホルム」で育った子どもたちは、親元を離れ、敷地内の小屋(表題写真)に移り住んでいきます。こうしたことを通じて、自立心を養い、自分自身で暮らしていく自活力を育んでいきます。デンマークのエコビレッジ、コレクティブハウジングにおける共通の悩みは、そのコミュニティの高齢化です。それで、先程の子供用の小屋などに加え、育児中の夫婦、カップル、単身者など若い世代を受け入れる豊富な間取りの居住空間を敷地内に増改築しています。多世代を受けいれていくための居住空間の多様化は、そのコミュニティが持続維持するための必然でもあります。

「職住近接」

 デンマークのエコビレッジの多くの住人は、そこで働き、そこで子どもたちを育てています。こうした生活は子供に親の働く姿を見せられるなど情操教育にいいばかりでなく、柔軟に子供の世話に対応することが出来ます。ここでは日本でいう“イクメン“が常識化しているわけですが、結果、多くの子育て世代がここに移り住んできます。このように職と住の構造そのものも建築計画と一緒にプランニングしていくと、より様々な世代が集う建築空間になっていくのです。(掲載:高齢者住宅新聞 2011年9月5日)

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子どもたちは働くことに対して自然に興味を持ちます

次稿につづく(10月5日発行)

ayumu.jpg磯村 歩
株式会社グラディエ 代表取締役
ユルツナクリエイティブディレクター
デザイナー
ユーザビリティエンジニア
ユニバーサルデザインコンサルタント


1966年愛知県常滑市出身。1989年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻卒業後、富士フイルム株式会社のデザイナー としてビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器などのインダストリアルデザイン、インタフェースデザインに従事。日刊工業新聞社 機械工業デザイン賞、財団法人日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞選定など受賞多数。特にユーザビリティ向上にむけたデザイン開発プロセスの改革に取り組み、2007年にはユーザビリティデザイングループ長としてデザイン戦略立案とHCD開発プロセスの導入と推進を担う。「感じるプレゼン」(UDジャパン)執筆以降、ユニバーサルデザインに関する講演を数多く実施。2010年には北欧福祉の研究のためEgmont Højskolen及びKrogerup Højskolen(いずれもデンマーク)に留学、また株式会社グラディエを設立し、現在に至る。

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