全国に自分の家族がいるという社会
コレクティブハウス「かんかん森」
先日、日暮里にある「コレクティブハウス・かんかん森(以下かんかん森)」に訪問しました。「コレクティブハウス(コレクティブハウジング)」とは、共同で使うスペースを持ち、食事・設備の管理など生活に関わる運営を住人同士で共同する居住形態をいいます。スウェーデンが発祥だといわれています。(文献によってはデンマークという説もあります)
「かんかん森」には共有スペースとして「ダイニングルーム」「キッチン」「キッズスペース」「ゲストスペース(訪問者宿泊用)」「工作テラス」「コモンテラス」「コモンランドリールーム」などがあります。またグループ活動として、キッチン設備・備品の管理、食材の管理を行う「コモンミールプランニンググループ」、コモンテラスの植栽・緑化、コンポストの管理を行う「ガーデングループ」、リサイクル活動・フリーマーケットの企画・開催を行う「エコ・省エネグループ」「備品グループ」「掃除グループ」「インテリアグループ」など計14のマネジメントグループがあり、住人はいずれかに所属することになっています。地域のボランティア活動にマンションがセットになっているようなイメージでしょうか。
「コモンミール」と呼ばれる夕食会が週3回行われています。食事代は400〜500円で、また月1回の料理当番が廻ってきます。夕食の様子はまさしく大家族。子供が遊ぶ声、ビールを片手に語り合うお父さん、母親同士はやはり子育ての話題など、そこには世代を超えた交流があります。このコミュニティでは高齢の方がとても元気なのだといいますが、マネジメントグループにおける役割・世代を超えた交流などが覇気と生活に潤いをもたらしているのかもしれません。また子供にとっても社会性が育まれる効果、そして地方から出てきた一人暮らしの方にとっては、顔見知りに囲まれているという安心感があるといいます。
月1回の定例会があり運営に関する議論と決定を行います。決して多数決をせず、全員が納得するまで議論を重ねるそうです。先に述べた「ゲストルーム」は規模・運営方法などの最終決定まで3年間ほどの期間を要したといいます。ちなみに私が一ヶ月ほど働いていたデンマークのエコビレッジでも同じように合意形成に時間をかけていました。「かんかん森」と同じように全員が賛成するまで議論を重ねるそうですが「全員が賛成することってありえるの?」と聞くと「反対する場合は、対案をもってこさせるのよ。そうするとほとんどが賛成に回るわ」といいます。
12階立ての複合施設マンションの3フロア部分(28戸)が「かんかん森」に割り振られ、現在30名程度の方々が暮らしています。入居費は56平米(2LDK+バルコニー)で143,000円。共有スペース分も入っての料金ですから、まあまあ納得できるレベルではないでしょうか。最も安いのは単身向け約5畳の部屋(シェアルーム)で45,000円です。
2011年で8年目を迎えるようですが、当初のメンバーは3名しか残っていないといいます。理由は転勤、結婚などさまざまで、大きな傾向はみられないということでしたが、そもそも”居を構える”とは、値段、土地柄、間取り、ファサード、通勤・通学の利便性、親族との距離など様々な要素が絡んだ上で決定されるものでしょう。こうした共同生活を希望したとしても条件が合うものはなかなか見つからないのかもしれません。
現在、コレクティブハウスは都内に4軒、都外に1軒ありますが、今後も継続して様々なニーズにあわせたコレクティブハウスを全国に広めたいといいます。「単身赴任などで全国を行き来する人にも、転勤先にコレクティブハウスという”ファミリー”があれば、どこにいっても家族に加わることが出来る」 もし、本当にそうなったら、日本中どこにいっても安心を感じられる素敵な社会になるのかもしれません。そして、これが日本だけに留まらず世界中にあれば、世界を旅するのが楽しくなりますね。実際、エコビレッジでは、世界中から訪問者を受けるなど交流が進んでいるようです。このように同じ志向、同じライフスタイルをもった仲間たちが繋がっていくのは、必然のような気もします。
因に私が留学したデンマークでは”親の面倒をみる”という常識がありません。そこには互いのライフスタイルを尊重する個人主義が根底にあります。そもそもは女性の社会進出など、従来の家族形態の崩壊の末にこうした常識が育まれたといいます。それに呼応するように社会保障の充実が図られました。私たち日本は”親孝行”という徳の価値観の中にいますが、無縁社会、孤独死、限界集落など地縁、血縁の崩壊は誰の目にも明らかでしょう。日本でもコレクティブハウスに限らず、特養に幼稚園をセットするなど様々な相互扶助の取り組みが行われています。これからの”居を構える”というのは、物理的な要素に加え、どのようなコミュニティに参加するのか、というのが一つの要素になってくるのかもしれません。
2011.4.10 ユルツナクルー イソム